「食べない…」を溶かす。偏食・食べムラの原因と、絵本を使った関わり方【保育士が解説】

昨日まで食べていたはずなのに、今日は口をきゅっと結んで顔をそむける。せっかく作ったのに、ひとくちも食べてもらえない。「ちゃんと栄養が摂れているのかな」「私の作り方が悪いのかな」と、食卓のたびに胸がざわつく…。そんな悩みを抱える方は、実はとても多いんです。
今回は、現役保育士の私Ryuが、偏食・食べムラが起こる理由と、今日からできる関わり方、そして絵本の力を借りた食への近づき方を紹介します。
結論からお伝えすると、偏食・食べムラの多くは、成長の過程でごく自然に起こるものです。育て方が間違っているわけでも、お子さんに問題があるわけでもありません。まずは「今、そういう時期なんだ」と知ることが、気持ちを軽くする一歩になります。
- 偏食・食べムラが起こる3つの理由
- 絵本にできること・できないことの線引き
- 今日からできる、無理なく食への興味を育てる5つの関わり方
- ねらい別・食をテーマにしたおすすめ絵本12冊
なぜ偏食・食べムラが起こるの?


「わがまま」や「甘え」だと思われがちな偏食・食べムラですが、実際には発達の過程で起こる自然な反応であることがほとんどです。主な理由を3つに分けて見ていきましょう。
初めての食べ物への警戒心(食物新奇性恐怖)
2〜3歳頃になると、初めて見る食べ物や、見た目が変わった料理に対して強い警戒心を示すようになります。これは「ネオフォビア(新奇性恐怖)」と呼ばれる、多くの子どもに見られる発達段階の一つ。
「知らないもの=危険かもしれないもの」と本能的に判断してしまうため、口に入れる前から拒否反応が出てしまうのです。決してわがままではなく、体を守るための自然な反応と考えられています。
味・食感への感覚の敏感さ
子どもは大人よりも味覚が敏感で、特に苦味に対して強く反応すると言われています。ピーマンや緑黄色野菜が苦手な子が多いのも、この感覚の鋭さが関係しています。
また、ぬるぬる・ぐにゃぐにゃといった食感、混ざり合った料理の見た目に強い抵抗を示す子もいます。これも成長とともに感覚が少しずつ育っていく中で、変化していくことが多い部分です。
「自分で決めたい」気持ちの芽生え
偏食・食べムラは、いわゆる「イヤイヤ期」と重なる時期に強く出ることがよくあります。この時期は「自分でやりたい」「自分で選びたい」という自我が急速に育つタイミング。
「食べる・食べない」も、子どもにとっては数少ない「自分でコントロールできること」の一つです。大人が食べさせようとするほど、かたくなに拒否してしまうのは、この気持ちの表れであることも少なくありません。
正直に言うと、絵本を読んだだけで食べられるようにはなりません
先にお伝えしておきたいことがあります。食べ物の絵本を読んだからといって、偏食や食べムラがすぐに解消することは、まずありません。
保育の現場で何百回と読み聞かせをしてきましたが、「野菜の絵本を読んだら、その日から野菜を食べた」という子には、正直なところ出会ったことがないんです。ピーマンの絵本を読んだ直後に給食のピーマンを残す、なんてこともごく普通にあります。
では絵本は無意味なのかというと、そうではありません。絵本の役割は「食べさせること」ではなく、食べ物との心の距離を縮めることにあります。
できないこと
・その日のうちに苦手な食材を食べさせる
・「好き嫌いはダメ」と言い聞かせて直す
できること
・食べ物の名前や姿を知り、「知らないもの」ではなくす
・食べたものが体をつくることを、実感として理解する
・食卓や食事の時間そのものに、楽しいイメージを重ねる
・食べない子を責めない空気を、大人の側につくる
偏食は、調理の工夫や生活リズムの見直し、そして何より時間によって少しずつ変わっていくものです。絵本はその長い道のりの中で、親子が食事の時間を嫌いにならずにいるための「支え」だと考えると、ちょうどよい距離感で付き合えます。
なお、体重が増えない、食べられるものが極端に限られる、丸呑みや吐き出しが続くといった場合は、絵本や家庭の工夫だけで抱え込まず、かかりつけの小児科や自治体の栄養相談に相談してみてください。
今日からできる、無理なく食への興味を育てる5つの関わり方


偏食・食べムラは、無理に食べさせようとするほど、かえって食事の時間そのものが嫌いになってしまうことがあります。焦らず、少しずつ食への興味を育てていく関わり方を紹介します。
- 「食べる」より先に「見る・触る」経験を増やす:食材を洗う、ちぎる、混ぜるなど、調理のお手伝いを通して食べ物に親しむ機会をつくる
- ひとくち食べられたら大げさに喜ぶ:完食を目指すのではなく、「挑戦できたこと」自体を認めてあげる
- 「一緒に食べる」を大切にする:大人やきょうだいが美味しそうに食べる姿は、それだけで一番の食育になる
- 無理強いせず、いったん下げる勇気を持つ:「残さず食べなさい」より、「また今度食べてみようか」の言葉で切り替える
- 絵本で食べ物への”心の距離”を縮める:食べさせるためではなく、食べ物や食卓に親しみを持つ時間として読む
【ねらい別】食をテーマにしたおすすめ絵本12選


ここで紹介するのは、「食べること」そのものをテーマにした絵本だけです。食べ物が脇役として出てくるだけの絵本は、楽しくても食への働きかけとしては弱いため、あえて外しています。
4つのねらい別に分けているので、お子さんの様子に合いそうな入り口から選んでみてください。
①「知らないもの」ではなくす|食材そのものを知る絵本
初めて見る食べ物への警戒心が強い子には、まず「知っているもの」に変えてあげることが効きます。絵本で何度も目にした食材は、食卓に出てきたときの心のハードルが確実に下がります。
やさいのおなか


作:きうちかつ/出版社:福音館書店
「これ なあに」の問いかけとともに、野菜の断面が白黒のシルエットで登場します。ページをめくると答えの野菜がカラーで現れる、シンプルなクイズ絵本。ネギ、レンコン、ピーマン、たけのこなど、11種類の身近な野菜が並びます。


やさい


作:平山和子/出版社:福音館書店
食卓に並ぶ野菜が、畑ではどんな姿で育っているのかを描いた絵本。土の中で実る大根やにんじん、つるを伸ばすきゅうり。切り身しか知らなかった野菜に、本来の姿があることが伝わります。
くだもの


作:平山和子/出版社:福音館書店
すいか、もも、ぶどう、なし、りんご。まず丸ごとの姿が示され、めくると食べやすく切られた状態で「さあ どうぞ」と差し出されます。平山和子さんの写実的な絵は、本物と見まがうほどのみずみずしさです。


② 食べたものが体をつくると知る|栄養・体の仕組みの絵本
「なんで食べなきゃいけないの?」に、言葉で答えるのは難しいものです。食べたものが体の中でどうなるかを絵で見せると、子どもは驚くほど納得します。3歳以降におすすめのアプローチです。
たべもののたび


作:かこさとし/出版社:童心社(かこさとし からだの本)
黄色い栄養のカバンを持った食べ物たちが、ももいろのトンネルを通り、いぶくろこうえんを抜け、しょうちょうのジェットコースターに乗って進んでいきます。口から入った食べ物が消化され、栄養になって排泄されるまでを描いたロングセラーです。
なにをたべてきたの?


文:岸田衿子/絵:長野博一/出版社:佼成出版社
白いぶたが、りんご、レモン、メロンと次々に食べていくと、食べたものの色がそのままお腹に浮かび上がってきます。最後に石けんを飲み込んでしまい…という、シンプルながら驚きのある展開です。


おなかのこびと


作:よしむらあきこ/出版社:教育画劇
ぼくのおなかの中には、小さなこびとが住んでいます。食べすぎたり、飲みすぎたり、寝ながら食べたりすると、こびとは大あわて。おなかが痛くなる理由が、笑いながら分かる食育絵本です。


③「おいしそう」を味わう|食欲そのものに働きかける絵本
食が細い子には、栄養の話より「おいしそう」という感覚を思い出させるほうが効きます。絵や音から食欲が刺激されると、自然と口が動き出すことがあります。
おいしいおと


文:三宮麻由子/絵:ふくしまあきえ/出版社:福音館書店
春巻き、ウインナ、わかめのみそ汁、レタス。それぞれを食べたとき、口の中でどんな音がするかを言葉にした絵本です。「ムシャムシャ」のような決まりきった音ではなく、食べている本人が体の中で聞いている音が描かれています。
しろくまちゃんのほっとけーき


作・絵:わかやまけん/出版社:こぐま社
しろくまちゃんがホットケーキを作る様子を、「ぽたあん」「ぷつぷつ」「ふくふく」といった心地よいオノマトペとともに描いた、50年以上愛されるロングセラー。焼き上がったホットケーキをこぐまちゃんと一緒に「おいしいね」と食べる場面まで丁寧に描かれています。


おべんとうバス


作・絵:真珠まりこ/出版社:ひさかたチャイルド
真っ赤なバスに「ハンバーグくーん」「えびフライちゃん」とお弁当のおかずたちが次々に返事をしながら乗り込んでいく絵本。呼ばれた食べ物が「はーい」と元気に登場する繰り返しが、小さな子にも分かりやすく心地よく響きます。


④「作る」から入る|料理の過程を知る絵本
自分が関わった料理は、不思議と食べられることがあります。実際の調理が難しくても、絵本で「作られる過程」を知るだけで、料理への当事者意識が生まれます。
サンドイッチ サンドイッチ


作:小西英子/出版社:福音館書店
パンにバターを塗り、レタス、トマト、チーズ、ハムを重ねていく様子を、思わず手を伸ばしたくなるほど精密な絵で描いた一冊。「そーれ」の掛け声とともにサンドイッチが完成する瞬間は、読み聞かせのたびに歓声があがります。


おにぎり


文:平山英三/絵:平山和子/出版社:福音館書店
炊きたてのごはんを手にとって、ぎゅっ、ぎゅっと握り、真ん中に具を入れて、海苔を巻く。おにぎりが出来上がるまでの手の動きを、湯気まで感じられそうな写実的な絵で描いた絵本です。
おべんとう


作:小西英子/出版社:福音館書店
お弁当箱に、ほかほかのごはん、あつあつのミートボール、ふんわり卵焼き、タコさんウインナーが次々に詰められていきます。おかずが一つずつ増え、最後においしそうなお弁当が完成するまでを描いた一冊です。


グリーンマントのピーマンマン


作:さくらともこ/絵:中村景児/出版社:岩崎書店
子どもたちに嫌われがちなピーマンが、実はグリーンマントをまとったヒーローだった…というお話。バイキンが襲ってきたとき、ピーマンならではの苦味や香りが必殺技になって大活躍します。1978年の刊行以来読み継がれている、食育絵本の定番です。
まとめ


偏食・食べムラは、多くの子どもが通る自然な発達の一過程です。「なぜ食べないんだろう」と自分を責めるより、「今、こういう時期なんだな」と受け止めることが、親子どちらにとっても心の負担を軽くしてくれます。
そして繰り返しになりますが、絵本は「食べさせるための道具」ではありません。食べ物の名前や姿を知る、食べたものが体をつくると知る、おいしそうという感覚を思い出す、作る過程にわくわくする。そうした小さな積み重ねが、何ヶ月、何年という時間をかけて、少しずつ食への抵抗をやわらげていきます。
今日ひとくち食べられなくても、大丈夫。絵本を開いた時間が、親子にとって楽しいものであれば、それだけで十分に意味があります。
今回紹介した絵本のほかにも、Ryuが運営する「保育士Ryuのおすすめ絵本紹介ブログ」では、食育や生活習慣に関する絵本を多数紹介しています。あわせてご覧ください。



「食べてくれない」も、成長のあかし。
絵本は食べさせる道具ではなく、食卓を嫌いにならないためのお守りだと思って読んでみてください。









